恐怖と理性

クルティウス・ルフス『アレクサンドロス大王伝』(谷栄一郎・上村健二訳、京都大学学術出版会刊)より。

・しかしながら、賢明な策もあらゆる人知より強力な運命の女神が粉砕した。何となればある者は恐怖のあまり命令を実行しようとはしなかったし、ある者は実行しようとしたが無駄であった。一部が崩れだすと全体が崩壊してしまうものだからである。(37p)

・(ダレイオスが逃げ出すと)他の者たちも恐怖で四散し、少し前に体を守るために手に取った武器を投げ捨て、各自に開かれた逃げ道に殺到した。恐怖におびえる者は、本来なら守りになるはずのものまで恐れるのだ。(44p)

・実際、真実を確かめることができないとき、恐怖によって偽りの情報が誇張されるものである。(102p)

・兵士はもっともな恐怖の理由というより偽りの、実体のない理由により動揺している。(114p)

・「ペルシア人たちはもはや逃走できなくなったので、逃走をやめて戦おうとしている。彼らは三日前から恐怖で血の気が失せ、自らの武具の重さに苦しみながら同じ場所にとどまっている。彼らが絶望している何よりの証拠は彼らが町や畑を焼いていること、彼らは自分たちが破壊できなかったものはすべて敵のものになるということを認めているのだ」(119p)

・人は、心が恐怖の虜になってしまうと、最初に恐怖を抱いたもの以外は思考の対象外になってしまうものなのだ。(130p)

・とくに夜の闇は恐怖であった。(中略)夜の闇がつのらせていた恐怖は、待望の日の光によって減少した。(155p)

・語るに信じがたいことであるが、捕虜を捕らえた者の数よりも捕らえられた捕虜の数のほうが多かったのである。運命の女神が恐怖におびえた敵方から一切の理性を奪ってしまったために、相手方が少数であることも、味方が多数であることも十分には認識できなくなっていたのだ。(186p)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です